コラム「この先生にきいてみよう」
第6回 物理を楽しもう
山口留美子(大学院工学資源学研究科 准教授)
物理学は、物(もの)の理(ことわり)をひもとく学問です。多くのことを自然から学び、その法則を明らかにすることを目的としています。また、古くから美術や音楽などの芸術にも深い関わりを持ってきた学問でもあります。現代の先端的な科学技術も、物理学を基礎として発展しています。
最も有名な物理学者を一人挙げよ、と言われれば、多くの人はアインシュタインの名前が頭に浮かぶのではないでしょうか。彼はPrinceton 大学の新入生向けの刊行物に寄稿した文章のなかでこんなことを言っています。“Never regard study as a duty, but as the enviable opportunity to learn to know the liberating influence of beauty in the realm of the spirit for your own personal joy and to the profit of the community to which your later work belongs.”(訳:けっして学習を義務と考えないでください、むしろ精神の世界で美が発揮する解放を知ることを学ぶことができるすばらしい機会です、自分自身の個人的な喜びのために、あなた達がやがてたずさわる仕事での社会の利益のために。)近年、理科離れが話題になり、物理の勉強を苦手とする学生も増えていると聞きますが、大学で物理を学ぶことをこんな風に思えたら、講義の景色も違ってくるでしょう。
ところで、スポーツを十分に楽しむためには、ルールを学び、基礎体力をつけ、技術を磨くことが必要だと思います。それと同じように、物理を楽しく学ぶには、最低限の数学の知識と計算力が必要になります。物理法則は数式で表されるので、ここは何とも避けられないところです。一見複雑な現象が単純な規則で起こっていたり、天文規模の出来事と原子や分子の中で起こっていることに共通の法則があったりします。それを式で表現し、その式を使って様々なことを予測できるのが物理の醍醐味です。5月21日の日食は見ましたか。次に日本で見られる金環日食や皆既日食の日時と場所も、きっちり正確に知ることができます。理系に限らず、各専門分野の学問を楽しく学ぶためにも、物理は強い味方になってくれるはずです。
最近、こんな文章を目にしました。 「できるだけ短い柵の長さで、できるだけ広い範囲を囲うにはどうするか?」という質問に対し、 工学屋さん:円形の柵を作る、 物理屋さん:赤道に柵を作る、 数学屋さん:小さな円形の柵を作り、その外側を「囲われた範囲」とする、 というものです。皆さんは、どの答えに、「なるほど!」と感じましたか?