コラム「この先生にきいてみよう」
職業を選択するということ
熊谷 誠治(大学院理工学研究科 教授)
高校生のとき、自分が大学の教授になるとは微塵も思っていませんでした。親、兄弟、友人、誰一人として思ってもいなかったでしょう。
このコラムの執筆を機に、自分が高校生のとき何を考えて、大学に進学したのか、大学に進んでから、なぜ、今の職業を選択したのかを考えてみました。
多くの高校生は2年生になるあたりで、文系か理系かの選択に迫られるでしょう。将来は自動車の設計に関わりたいから理系にという積極的な理由から、数学がどうしても苦手なので文系に、日本史、世界史の暗記がストレスになるので理系にという消極的な理由まで色々あると思います。私もそれほど強い理由があったわけはありません。ファミコンやラジコンが好きな少年だったので、まあ理系かな、その中だったら電気工学か電子工学かなというありふれた理由でした。
大学に進学するということは、将来選択する職業分野が明確になるということです。逆の言い方をすると、職業選択の幅がぐっと狭くなります。選択した学部や学科が、自身の職業を決める上で大きな影響を与えることは明らかです。私自身、大学進学の際に後悔がなかったということはありませんが、興味のある分野を自分で選択したという点では納得しています。「自分で進路を決めた」がベストと思いますが、「もうその選択しかなかった」でも、納得さえできれば、それはそれで良いと思います。
大学に入りますと1、2年生では教養基礎科目が多く、高校時代と同じく様々分野の科目を選択します。3、4年生になると、ほとんど専門科目になります。興味のある専門分野の授業が多くなりますが、授業内容も難しくなってきます。試験で悪い点数が多くなると、なぜ自分はこの専門を選んだのだろう、他の選択はなかったのだろうかと自問自答をしてしまうことがあります。そのときに、自分で納得して今の専門を選んだかとどうかで、勉強に対するモチベーションが違ってきます。
大学3年生のときは、理工系では一般的な大学院博士前期課程まで進学して、電気電子関係の企業に就職すると思っていました。ところが、4年生のときに卒業研究で初めて本格的な研究を行った際、研究ほど楽しいものはないと感じました。ある実験を行っても、得られた実験結果に興味を持たない人がいます。一方、こういう理屈でこのような実験結果が出たのだろうと考える人もいます。大学理系では最低限ここまでは要求します。さらに、次にこのような実験を行うと、このような結果になるだろう予測する人もいます。そして、その実験をやらないと気が済まず、実験を延々と繰り返す人もいます。私は最後の人でした。大学院博士前期課程に在籍していた時点で、何とか研究を仕事にできないかと思い、大学の教員を目指すようになりました。研究所や企業で研究を行うという選択肢もあったと思いますが、心の奥底には学校の先生にもなりたいという気持ちがありました。
大学教員を目指すには、大学院博士後期課程に進学するのが普通です。しかし、費用の面、所属研究室の体制など、条件が整わなければ進学できません。進学できたということは「運」もあったと思います。大学院博士後期課程を修了して、博士号を取得しましたが、大学教員の仕事は簡単に得られませんでした。そのときは、非常に悩みました。最終的には「自分で選んだことだから」で納得して、全力を尽くしました。そして、なんとか大学の助手に採用されました。採用の連絡を受けたときは、本当にうれしかったです。
職業を選択するということは、これまでの自分自身の選択を納得できるかどうかに等しいと思います。自分の好きなことを仕事にできればベストでしょう。しかし、それには努力も運も必要になります。高校生のみなさん、文系理系の差はありますが、大学に進学すると、自分の将来像がいやおうが無しにはっきりしてきます。選択する学部、学科で自分の将来の職業がおおよそ決まります。納得のできる進路選択、それがこれから長い人生で重要になってきます。むしろ、勉強より大事かもしれません。
大学での仕事の様子 大学での講義風景
大学での仕事の様子 大学院生への研究指導