乾燥地帯や中東での統合的な資源管理を目指す
限られた資源を分かち合い、共に生きる知恵
砂漠における、ラクダと人間の相利共生関係
中東の砂漠に生息するヒトコブラクダとともに
右の写真は、縄田教授が訪れたスーダン東部の紅海沿岸に暮らすラクダとの1枚。砂漠の代名詞でもあるラクダは、水も緑も限られた砂漠で生きるために、独自の進化を遂げてきました。例えば、人間は海水を飲むことはできませんが、ラクダは塩分濃度5.5%もの塩辛い水でも飲むことができます。そのラクダのミルクの半分は子のラクダに与えられ、残り半分を人間が分けてもらいます。そのため、縄田教授はラクダを「天然の海水淡水化プラント」と例えます。代わりに人間はラクダが届かない深さにある地下水を汲み、ラクダに分け与えます。そして共にサンゴ礁のある島へ渡り、ラクダはマングローブをエサとし、人間は巻貝や流木を採取し、限られた島の資源を有効活用するのです。
また苛酷で不安定な環境を生き抜くには、ラクダだけに依存せず、ウシやヤギなどその土地の環境に合った複数の種の家畜を同時に飼うということも重要だと言います。貴重な緑が茂るオアシスでは、ナツメヤシという樹木の品種改良が重ねられ、病害虫や干ばつを乗り越え、何千年もかけてその分布域を拡大してきました。砂漠を生きる人間と動植物は、お互い助け合い、資源を分け合うことで共生しているのです。
現地の漁業者の視点で、ジュゴンを守る
日本では沖縄の一部に生息するジュゴンも、中東では身近な動物です。しかし浅瀬で暮らすジュゴンは、漁業者と接触する可能性が非常に高いと言います。船体がジュゴンを傷つけてしまったり、エンジン音が音に敏感なジュゴンにストレスを与えてしまいます。意図しないアクシデントでジュゴンが網にかかってしまう時もあります。この場合、漁業者の生活とジュゴン、両方を守ることが重要だと縄田教授は言います。
「人間と動物の共生を考える時は、地元に住んでいる人の視点を大切にしています。動物の保護ばかりを注視して地元に住む人たちの生活をなおざりにすることは、避けなければなりません。そこで長く暮らしてきた人たちはたくさんの知恵をもち、試行錯誤し、時には失敗もあったでしょう。その歴史を把握し、ジュゴンの生態、漁業との兼ね合い、村の生活を10年かけて他大学の先生方と共同で調べた科学的な情報を、自然保護区管理の具体策として活かす活動をしています」
著書『アラブのなりわい生態系』
縄田教授の研究は、単にひとつの生物を研究するのではなく、人間との関わりを含めた多様な側面に注目してきました。水も資源も少ない砂漠だからこそ、人間と動植物は貴重な資源を賢く使い、お互いを頼り分け合う知恵を育んできました。人間が砂漠で資源を得るには、様々な条件を判断し、無制限な乱獲をせず、自然の状況に即して動くことが必要だと、縄田教授は話します。
産油国サウジアラビアと日本の絆
中東といえば石油、天然ガスという資源の宝庫。世界有数の産油国であるサウジアラビアは、総合的な経済改革、社会改革をうたった「ビジョン2030」を掲げ、石油資源だけに依存しない国づくりを急速に進めています。100年先まで採掘可能な埋蔵量はあるにしても、今までのやり方だけではこの先成り立たないということを、石油生産を担う人たちだからこそ痛感していると言います。
「この50~100年で石油や天然ガスの生産だけに依存する経済体系や生活全般は変わっていくと思います。環境への負荷が適切でないと産業も生活も持続的にはなりません。エネルギー資源をほとんど海外に依存せざるを得ない日本は、サウジアラビアといろいろな連携の仕方が考えられます」と、縄田教授はこれからのサウジアラビアと日本の関係に期待を寄せます。
中東アラブ社会は、挨拶の仕方や、義理人情や恩、長い付き合いを大事にしたりと、人付き合いの感覚は日本やアジアの人と共通するものを持っているようです。そのため、サウジアラビアはアジア諸国をパートナーとして重要視しています。
しかし、2000年のサウジアラビアとの石油利権の延長交渉の際、日本の「アラビア石油」という企業は、残念ながら採掘権を失ってしまいました。日本はその苦い教訓をふまえつつ、エネルギー協力再構築をはじめ、多彩な分野で協力関係を築いています。縄田教授は、半世紀前に日本の教授が調査に訪れ貴重な写真や地図を残したオアシスの村を再度訪ね、その学術的価値を再検証する研究に取り組んでいます。縄田教授の調査は現地の注目を浴び、アラビア語のネットや新聞にも取り上げられました。
「サウジアラビアが新しい方向に向かおうとする今だからこそ、過去の伝統的な暮らしに新たな光をあてる文化遺産の調査が、大きな注目を集めたのだと思います。遺跡文化観光庁やメッカ州知事、ジッダ市長、研究者、地元の人たちの理解と協力の下で、一生懸命取り組んでいます。昔からの縁を大事にする日本人と一緒に協力していこうという、サウジアラビアの厚い人情を感じます」
現場で目指す、統合的な資源管理
子供のころから発掘や宝探しが好きだったと語る縄田教授。大学でエジプト考古学を学び、1年生のとき発掘調査隊の正式なメンバーとしてエジプトに足を運び、地元の人との交流や体験を通して初めて、「海外の人とコミュニケーションを取りたい、話してみたい」と思ったそうです。この経験が大きなきっかけとなり、中東?アフリカ地域、乾燥地帯に暮らす人々の多様な資源利用に関する研究に尽力してきました。
英語版?アラビア語版に翻訳して広く発信
縄田教授は研究成果を現地の人々へ還元することを大切にしています。平成27年には研究成果を英語、アラビア語へ翻訳して発信したことも高く評価され、「第30回 大同生命地域研究奨励賞」を受賞しました。また、縄田教授にとってカラー写真を使うこともこだわりのひとつです。英語やアラビア語が堪能でない村の人たちにとっても、写真は言葉を超えた財産になるというのです。
縄田教授はこれからも、特定の自然環境(アラブ諸国、砂漠)に即したコミュニティ開発や、環境負荷が低く社会的に公正な資源開発に関する研究を突き詰め、現場での統合的な資源管理を目指します。
自分の足で行き、自分の目と耳で感じよう
「多くの情報で溢れ、コミュニケーションツールも多様な時代です。しかし、実際にFace to Faceのコミュニケーションをしないとわからないことがたくさんあると思います。『自分の常識の壁を取り払い、自分の塀の中から出て、未知なる世界へ自分の足で飛びだす』という気持ちを大切に、チャンスを貪欲に積極的につかみましょう」と話す縄田教授。教育においても、自ら現地に足を運び、自分の目と耳で感じることに重きを置きます。
平成28年の「海外資源フィールドワーク」の様子
平成28年の「海外資源フィールドワーク」では、縄田教授が長年通い続けるスーダン東部、紅海沿岸の砂漠を訪れ、学生の興味(水資源、エネルギー?鉱物資源、生物資源)に合わせながら、現地での統合的な資源管理を検討しました。スーダンはイスラム社会でもあり、それぞれの民族の伝統も残る国です。人々は共通言語としてアラビア語を使いますが、各民族の言葉もあります。縄田研究室の学生はスーダンにある紅海大学の教員や学生に同行し、英語を介してコミュニケーションを図ります。イスラム教の伝統から、基本的に男性が女性の生活空間に入ることはできません。しかし今回は特別に、紅海大学の女性教員に同行してもらい、女子学生は料理や生活全般を一緒に体験したそうです。
「さらに今、現地の若い人たちは日本のアニメやゲームに注目しているので、学生ともすぐに仲良くなっていました。アニメの主題歌を一緒に歌ったり登場人物の話題で盛り上がったり、日本のアニメは新しいコミュニケーションツールとしてとても良いですよね」とフィールドワークを振り返る縄田教授。現地に暮らす人々や紅海大学、行政の方々の手厚いサポートの下、学生たちは有意義な時間を過ごせたようです。
「エネルギー生産体系とエネルギーへ依存する経済や生活のあり方が世界的に変わりつつある今、再生可能エネルギーも含めて各国の動向が注目されます。だからこそ、これから世に出る若い人たちには、未来を見据えて地域と地球を架橋する将来像を考えていくセンスを身につけていってもらいたい」と、縄田教授は若者たちへあたたかいエールを送ります。
縄田研究室の学生の声
国際資源学部資源政策コース4年次
中川 彩美 さん
海外資源フィールドワークではアフリカ大陸のスーダン共和国を訪問しました。渡航前の私は、日本と比べスーダンがどのくらい過酷な環境なのだろうと好奇心を抱いていましたが、いざ訪問してみると、40℃ほどある気温の高さ以外は、過酷だと感じたことはありませんでした。むしろもっと滞在していたいと感じるほど充実したフィールドワークでした。スーダンの方々に関しても、体格や肌の色、言語の違いなどはあるものの、内面的には、日本人とさして変わらないのではないかというのが感想です。仮に日本と異なる点を挙げるとすれば、仕事と休憩の切り替えにメリハリがあることです。労働時間内はもちろんしっかり仕事に取組み、休憩時間には仕事を持ち込まずしっかり休む。その姿勢は見習いたいと感じました。
縄田研究室は、多種多様な研究テーマを持つ学生が所属しており、とてもオープンな研究室です。縄田先生は私たち学生の相談を親身になって聞いてくれたり、多くのアドバイスも提供してくれるため、研究を進めていく上で手厚いサポートを受けることができます。もし自分が何に興味があるのかが分からなかったとしても、鉱物資源から文化人類学まで、様々な分野に関するテーマの中から縄田先生と共に探し、興味を抱くものを見つけることができるのではないでしょうか。私は将来、国際資源学部で学んだ“グローバルなものの見方”を活かし、国際NGOのスタッフとして開発途上国やその地域の人々の支援に携わることを考えています。
国際資源学部は文系と理系の分野が融合した学部で、エネルギー?鉱物資源そのものからその開発に関わる人々とのかかわり方まで幅広く学習ができる場所です。英語での受講もあり、大学生活は楽とは言えないかもしれませんが、その分得るものは多いと思います。高校生の皆さん、ぜひ国際資源学部を検討してみてください。また、すでに目指している皆さんへ、応援しています。
(取材:広報課)
※掲載内容は取材時点のものです