モノづくりの楽しさと次世代モビリティーのモータ開発をめざして
求められる高効率のモータ研究開発
日本の電力の半分以上を実はモータが消費しているということを知っているでしょうか。私たちの目には見えないところで身の回りには多くのモータが使われています。現在、脱炭素社会を実現するために動力システムの電動化の動きが加速し、ますますモータの需要は増えてきているのです。モータは製品の性能を左右するキーデバイスであり、小型軽量化?高効率化に向けた研究開発は非常に重要な課題となっています。
吉田先生の研究室では、企業との共同研究を中心に、秋田県立大学と共同で運営する機関「電動化システム共同研究センター」において電気機械のエネルギー変換によるさまざまなモータ性能向上の研究に取り組んでいます。
動力システムの電動化に向けた取り組み
高出力密度モータの必要性
航空機に搭載するモータは小型軽量化を求められ、しかもそのオーダーは電気自動車のモータよりも難しいレベルの設計になるといいます。一例として、吉田先生は航空機の電動化に向けた航空機における高出力密度モータの設計?開発を行っています。燃料をエンジンに送り出す燃料ポンプのモータの場合は、モータ小型化の基準は出力密度(容積1Lあたりにどのくらい出力が出せるかという基準)が重要となってきます。つまり、いかに小型軽量で高出力なモータを設計するかが鍵となるのです。
パワエレ機器冷却装置の小型?軽量化
航空機を電動化させるためには動力装置(モータ)に加えてインバータなどの電力変換装置が必要です。しかし電気機器は長時間使用していると熱を帯びてきます。航空機のモータやインバータは出力密度を高めて動作させるため、その分たくさんの熱が発生し、強制的に超高速のブロアで大量に風を送って冷却させる必要があります。吉田先生は電力変換装置に使われるパワエレ(パワーエレクトロニクス)機器の冷却装置を想定した超高速電動ブロアの評価技術開発にも取り組んでいます。
この場合の超高速は1分間の回転速度が最高100,000rpmになることで、自動車のエンジン回転数(運転席前のタコメーターに表示)の約10倍の速さとなります。吉田先生の研究室では評価装置を導入し、多種類の計測器でデータを読み取り、振動や回転数、電圧、電流の値が安全に実験できる範囲内であるか確認しながら、ブロアがどのくらいのパワーが出ているかを条件を変えながら測定しています。
吉田先生によると、この超高速電動ブロアの評価装置はとても大掛かりな装置だそうです。ブロア自体は直径10センチほどですが、駆動させるための電源が複雑な上に100dBを超える非常に大きな音が発生します。そのためこの装置を動かす時は、コックピットと呼ばれる隣の部屋から操作を行い、実験装置の部屋には入室できないように安全を考慮した環境がつくられています。
放電を防ぐことの重要性
小型?軽量で高密度化されると必要になるのはモータの絶縁評価の規格化です。異なる相のコイルが近い状態にあったり、鉄心にコイルが巻かれていると、コイル間やコイルと鉄心の間に高い電圧がかかり放電の原因となります。そしてそれは最終的に焼損する可能性があり、もし航空機内でこのようなことが起こってしまえば一大事です。それを防ぐためにもしっかりと性能評価を行い、製品として成り立つという証明を示さなければいけません。また、コイル性能も高密度化されていくことにより絶縁性能評価がさらに必要となります。
航空機は高度が上がっていくほど気圧が下がりますが、現状のモータコイルは気圧が下がると放電しやすくなるという傾向にあり、「絶縁」と「気圧」は非常に関係の深いパラメータだといいます。そのため絶縁性能の実験では電源装置は真空状態をつくれる環境で放電させているそうです。実際に紫色の光を放って放電している現象を見て取ることができ、この発光は太陽コロナと似ていることからコロナ放電と言われています。吉田先生はこのような実験をしながらモータの設計範囲と目的が反映されたかどうかを検証しています。
国内有数の電動化システム試験拠点-AKITAから世界へ発信!-
金鲨银鲨_森林舞会游戏-下载|官网は、内閣府交付金事業「小型軽量電動化システムの研究開発による産業創生」において、秋田県立大学との共同運営で研究開発の中心的役割を担う「電動化システム共同研究センター」を金鲨银鲨_森林舞会游戏-下载|官网3年4月に設置しました。そして、廃校となった秋田市雄和にある旧秋田市立種平小学校の校舎を改修して「新世代モータ特性評価ラボ」という電動化システム共同研究センターの主要試験施設を造り、国内有数の電動化システムの試験拠点となることを目指しています。
整備されたこの施設の体育館は150~200席収容の民間航空機の胴体が納まるほどの広さがあり、航空機実寸台の配電線設置のほかにも電動機製の評価設備として電動機/発電機性能の評価試験や電動機で駆動する装置の耐久試験/信頼性試験、電力グリッドと連携した大小システムの実証試験などができるのが特徴です。
現在の航空機は電気、空圧、油圧で制御されていますが、吉田先生の動力システムの電動化に向けた取り組みは「2030年の電動化システム構想」のひとつとして研究されています。さらに人材育成、産学官連携で研究開発拠点をAKITAに創生し、航空?輸送機器産業の活性化も目標にしています。
エレクトロモビリティーに向けた重希土類フリーモータの開発
地球温暖化対策の観点から、エネルギー効率やCO2排出量に優れた性能を持つ電気自動車の需要は近年ますます高まっています。一言で電気自動車といっても、バッテリーの電力のみでモータ駆動するEV (Electric Vehicle)やエンジンとモータの掛け合わせで走るHEV (Hybrid?Electric Vehicle)、充電できるPHV(Plug-in Hybrid Vehicle)、水素と酸素で発電してモータ駆動するFCV(Fuel Cell Vehicle)など種類もさまざまで、これら電気自動車のモータには高性能磁石(ネオジム磁石)が使われています。
ネオジム磁石は、ネオウジム、鉄、ホウ素を主成分とする代表的な希土類磁石(レアアース磁石の一つ)で、最も強力な磁石だとされています。モータに使用するネオジム磁石には、ジスプロシウム(Dy)という重希土類の一種を添加することにより高温時でも磁力を低下しにくくする鉱物が使用されています。
しかしDyの生産は特定の国に依存しており、採掘する鉱山は粘土質のため酸をかけて溶かして回収するという環境に負荷がかかる方法で採掘されているといいます。電気自動車は環境に優しいというイメージがある裏で、実は環境汚染が起こっているという現実は無視できません。さらにDyは希少なレアメタルのため高価という点もあります。こうした背景からDyに代わる磁石の開発の動きが現在活発化しています。
吉田先生もその開発に取り組み、Dyフリーのネオジムボンド磁石を用いることを着想しました。ボンド磁石は原料に樹脂(プラスチック)を混ぜて溶かし成形した磁石で、プラスチックマグネットとも呼ばれています。
しかし、これらの磁石は重希土類を含まない磁石として造ることができる反面、強力な焼結磁石(読んで字の如く焼いて固めた磁石)と比べると磁力は弱いといいます。そこで磁力の弱い磁石でも強力磁石を使ったモータと同等以上のトルクを出力できるようなモータの開発を目指して取り組んだのが「非対称磁極構造重希土類フリー永久磁石同期モータ」です。このモータは資源リスクを回避可能なモータとして日本磁気学会で評価され論文賞を受賞し、今後は製品化に向けて共同研究を進めているそうです。
ドローン用のモータ開発
モータ小型化の研究の中には、ドローンに使われるモータ開発もあります。一般的にドローン用のモータには円筒形状の永久磁石モータ(permanent magnet)が使われています。これは、ラジアルギャップモータと呼ばれ、放射状の半径方向に磁束が流れるものです。それに対して吉田先生が取り組んだモータはディスク型の回転体を動かすような構造の「アキシャルギャップモータ」といいます。アキシャルという言葉は軸(シャフト)を意味していて、シャフト方向に磁束が流れるというモータです。
同じ体積でどのくらいのトルクが出せるかという基準の中にトルク密度という項目があり、アキシャルギャップモータのトルク密度は従来の円筒形状磁石よりも2倍ほど高く、ディスク型で薄い形状なので小型化にもなっています。
このほかにも吉田先生はアキシャルギャップ誘導モータという磁石を一切使わないドローン用のモータの設計の研究も行っています。誘導モータの回転子は、リング状の端絡環を銅またはアルミの棒で繋がれ鉄心の中に埋め込んだ形となっており、「かご形回転子構造」と言われています。鉄とアルミ、または銅の金属体の材料でできている上に、磁石を使わないことから資源リスクも無く量産性にも優れています。ドローン用モータは、小型化のため永久磁石を使用するのが一般的ですが、この研究成果を応用すれば、誘導モータを将来的にドローンにも活用できるのではないかと共同研究も進められています。
研究がかなえる未来を想像してモノづくりの楽しさを学んでほしい
金鲨银鲨_森林舞会游戏-下载|官网では新しいアイデアを取り入れた製品を設計し、県内の企業に出向き試行錯誤しながら共同研究できるという環境をつくっています。
「学生の皆さんにはただ受け身で研究するのではなく、手を動かし頭を働かせて工学全般の基礎知識を身につけてほしいと思っています。試作したモータを評価するには、動かすモータを制御する必要があり、各モータに特化したプログラムをカスタマイズすることもあるので研究にはプログラムスキルも必要となってきます。課題を見つけて新しいモータを設計し、評価まで行うには幅広い知識と経験が必要ですが、設計したモータを実際に回す時が何より楽しい瞬間です」と吉田先生は語ります。
吉田先生たちが開発したさまざまなモータの製品化をめざして、モノづくりの楽しさを体感しながら持続可能な社会づくりへの貢献、そして豊かな社会の実現に役立つ未来に向けて研究はこの先も続いていきます。
研究室の学生の声
大学院理工学研究科 共同ライフサイクルデザイン工学専攻 博士前期課程
修士1年 清水 康平 さん
高校1年生の夏休みの課題で秋田県の風力発電の設計をされている会社のお話を聞く機会があり、そこで開かれたグループワークにも関心がありました。その後モータ関係に興味を持ち、理工学部に入学して吉田先生の研究室へ入りました。
現在私はモータを設計してその試作評価を行うための環境をつくる研究をしています。モータを含めた評価システムの機械設計をデザイン企業の方とやりとりしながら進めています。企業の方と実際にモノづくりが体験できることはとても楽しいです。共同研究によって職業体験ができることや、自分で考えて行動する力も同時に身につけられると思います。
大学院理工学研究科 共同ライフサイクルデザイン工学専攻 博士前期課程
修士2年 加澤 英恵 さん
私は秋田県南部にあるモータのコイルを造っている会社の社長さんの講演を聞いたことがきっかけでモータに興味を持ちました。その講演で紹介していたモータは銅製で断面が円形の一般的なモータではなく、アルミ製で断面は四角形、しかも軽くて高性能というモータだったのです。秋田にもこんなに新しい発想を持った企業が存在しているという発見は私にとって刺激になりました。
また、実用性と省レアアースにも魅力を感じ、現在はロータ(回転子とも呼ばれるモータ回転部)に永久磁石を使用した永久磁石モータの研究をしています。EV用の永久磁石モータの共同研究はコロナの関係で中断してしまったのですが、その時の研究で作成したモータ設計ツールが今年、電動化システム共同研究センターでの研究に最終的に繋がり、とても嬉しく思っています。企業との共同研究で実際に企業の方とお話する時は解析を主体に話を進め、試作するにはさまざまな視点に立って研究をしなければいけないことを学び、この一連の体験は私にとって非常に有益なことでした。
私は来年社会人となりますが、在学中に技術的なことを学べたほかに企業の方たちと一緒に研究させていただいたことで知見を広げられたと思っています。
(取材:広報課)
※掲載内容は取材時点のものです