早産で生まれたお子さんとご家族に寄り添いながら
小児科から精神科へ

私は、小児科?精神科の診療を行い、お子さんの体と心の両方の発達をサポートする診察?研究を行っています。
私は卒後、小児科医として仕事のキャリアをスタートし、特に新生児医療で働いてきました。その後、早産で生まれたお子さんの発達障害の診療のため、精神科へ移行しました。そのため、赤ちゃんがお母さんのお腹の中で育ち、誕生し、そして成長して大人になるまでの体と心の成長を見守っています。
元々、研究者志望ではありませんでした。そのため、初期研修も大学病院ではなく、小児科?児童精神科の評価が高い神奈川県立こども医療センターにあこがれて、レジデントとして入局しました。ここで新生児科のトレーニングを受け、その経験が診療だけでなく基礎?臨床研究につながっています。
お子さんの体と心の発達をサポートする
赤ちゃんの体の発達をサポートする新生児用ライト
私はお子さんの体と心をテーマにした2つの研究を行っています。
赤ちゃんの体重増加は、生後の健康な発達に直結しています。体の発達をサポートするために、胎児?早産児の発達を促す子宮内環境や新生児集中治療室NICUといった『出生前』の環境を最適化する研究を、分子生物学?生理学を使って行っています。
人工子宮のプロトタイプを作成したり、赤ちゃんの発達を促すNICUを建築士?医療関係者と設計?施工したこともあります。
また『出生後』の乳幼児の保育環境を最適化して、お子さんの心の発達をサポートする研究も行っています。
具体的には、お子さんの心(認知機能)の発達に良い遊びと睡眠の研究をしています。これまでの診療?研究から、子どもの元気な心の発達には、昼の遊びと夜の睡眠の両方が大事なことが分かっています。
一方で、どんな遊びと眠りの組み合わせ?バランスが心の発達に一番いいのか、まだよく分かっていません。全国10施設が参加する私達の研究グループは、2011年頃から少しずつ知見を蓄積し、新しい方法をトライしてきました。
最近は、小児科?精神科学、作業療法学の視点から「デジタルおもちゃ」などのスマホアプリの開発を行い、実際にご家庭で使用して頂いています。このアプリで毎日の自宅での遊びと眠りをサポートし、お子さんの言葉やコミュニケーションが伸びることを確認しています。

ARデジタルおもちゃ(パンダ)で遊ぶお子さん
診療と研究のあいまいな境界?

私の中では診療と研究の境界はあまりありません。振り返ると、早産で生まれたお子さんに対するより良い診療を考えるうちに、新しい治療のアイディアが生まれ、それを基礎?臨床研究で確認して、治療法を開発する流れになっていました。
あらためて、お子さんの発達を考える上では、小児科と精神科の両方が必要で、良い診療を継続して提供するには、診療と研究の両方が必要だと実感しています。そんな意味で、今未解決のテーマでも初めから難しくとらえず、より良い治療のアイディアが浮かばないか、気楽に取り組むことから毎日の仕事を進めています。
中高生?大学生の皆さんへ
お子さんの体と心の発達を考える2つの資料をご紹介します。ひとつは100ページの薄い本、もうひとつは10ページほどのレポートです。お子さんの発達に興味がある方は是非お読みください。
1. 太田英伸. おなかの赤ちゃんは光を感じるか-生物時計とメラノプシン, 岩波科学ライブラリー, 岩波書店, 東京, 2014
2. 太田英伸ら. 早産児の睡眠?精神発達と早期療育. 精神神経学雑誌. 2025 1270070447.pdf(フリーアクセス)
(取材:広報課)
※掲載内容は先生ご本人による執筆です

